乾山(深省) ◆ 杢兵衛 寺田慎太郎 ◆
尾形乾山とは、私たち日本料理人特に京都の人間にとっては非常に重要な、
というより欠くことの出来ない存在ではないでしょうか?
先日、京都文化博物館で開催中の「乾山の芸術と光琳」を見に行ってきました。
素晴らしい作品が数多く展示されていました。
実に驚きだったのは元禄時代を生きた乾山の作品が
非常にいい状態で数多く残されていることでした。
懐石器にしても1客、2客だけが残っているのでなく、
かの有名な「色絵竜田川文向付」なんかは10客、しかも完品で残っています。
300年もの昔に焼成された陶器が、今も色褪せることなく輝き続けられるのは、
これらの乾山の作品に触れた全ての人々がその素晴らしさに魅了され、
大切に扱ってきたからだと思います。
私も「乾山写し」と呼ばれる器を何点か持っていますが、実に良いものです。
特に「色絵竜田川文向付」は好きです。
黄色、緑、赤、白そして金色と五色で彩られた器ですが、
料理を盛り付けてもその色が邪魔にならず、料理を際立たせてくれます。
今回の展覧会で乾山の陶器にも非常に感動したのですが、
それ以上に私が魅了されたのが掛け軸です。
以前より乾山の軸は非常に好きしたが、なかなか本でしか見ることが出来ませんでした。
今回は多くの掛け軸が展示されており、実に素晴らしかったです。
乾山は絵の場合落款を「乾山」とせず「(紫翠)深省」と書いていることが多いようです。
そして画賛が圧倒的に多いようです。
その中でも私が最も気に入り、絵の前で釘付けになったのが「茄子図」です。
実はこの絵は私が持っている本に載っており知っていました。
ずうっと本物を見たいと思い続けていた絵です。
ふっくらした茄子が二つ中央に描かれています。
棘がぴんと立ち、瑞々しさすら感じます。
薄墨で描かれ、絵の中から浮かび上がっているようにも見えます。
そしてこの絵の最大の魅力は賛です。
茄子を取り巻くように賛が書かれ、その字も空いた空間を
フルに使い勢いよく書かれています。茄子と共に楽しそうに踊っているようです。
「なれ茄子なれなれなすびなれなすびならすは棚の押絵ともなれ」と賛は書いています。
この中に「な」が8回使われていますが、同じ字があまり重ならないようにしています。
「奈」、「茄」、「南」、「那」といった字を上手く配置し、バランスを取っています。
なんとも遊び心の感じられる作品です。
乾山は1730年代から江戸に居を構え、江戸の地で没しています。
いわばこの「茄子図」は晩年の作品になるわけですが、
「まじめ一筋」といわれた乾山からの脱却を感じる作品であるように思えます。
何のためらいもない筆遣いは正に達観の境地であるように感じます。
そしてその影には兄光琳の存在が非常に大きくあったのではないでしょうか。
弟に借金するような兄ではあったでしょうが、乾山はその才能を見抜き、
嫉妬すら感じていたかもしれません。
「茄子図」は兄の存在なくしては生まれなった名品だと強く感じます。
なんとも今回もえらそうなことを書き綴りましたが、
私もまた乾山の魅力に取り憑かれた人間として、
今後料理の世界を通して乾山(深省)の素晴らしさを
1人でも多くの人に伝えていきたいと思います。
投稿者 academy : 2008年03月30日 23:51