「米噛み」と前頭葉の発達 ◆ 嵐山熊彦 栗栖 基 ◆
今から2500年以上前、縄文時代末期に東南アジアから黒潮に乗って日本に古代米が伝わり、
農耕民族としての日本民族史は始まった。云わずとも、その原点は稲作からである。
稲は「米」の母体であり、その稲は春に植え、夏に成長して、秋に実り、そして冬に収める。
これが稲の一生である。この大原則によらない限り、米は食膳に上ってこない。
この自然の大原則は低温から始まって高温となり、再び低温に戻り完成する。
春・夏・秋・冬の温度変化、3ヶ月ごとに変転する地球のリズム、
すなわち四季のエネルギー(太陽・水・大地)が、生命の源であると古代人は考えていた。
春の気が満ちてくると、南は薩摩から北は津軽あたりまで、
あっという間に木の芽が吹いて花が咲き、秋の気がたつと稲の穂は一斉に黄金色に染まる。
しかも天地のこの仕掛けは地域、地域によって若干の時差はあっても極めて正確にやってくるから、
農作業もそれぞれの四季のリズムに乗り遅れたら満足な収穫は望めない。
そこで春が来れば一斉に種を蒔き、秋になると一斉に刈入れを行う。
しかしながら自然が相手となれば、時にはプログラムも狂い、長雨、冷害害虫などの
思わぬ被害が発生する。つまり収穫を終え、収穫物を穀庫に収めるまでは気が休まらない。
それ故に古代人は自然界、農耕の神を崇拝し畏怖の念を持ったのである。
たとえば、家屋の中心をなす太い柱を大黒柱と呼ぶが、この柱は農家にとっては
建築上の重要性とは別に、豊作の神が天下る「依代」でもあり、
神は天上から降臨されると言う認識を古代人は持っていた。
つまり穀物が成長するために必要な2大要素は天から授かる「太陽」と「雨」であり、
その神様が降臨される場所が家屋の中で最も重要な大黒柱であった。
米の最も原始的な食べ方は「蒸して食べる」方法と、他に米を粉砕し粉にして食べる方法があった。
もちろん当時の米は古代米であり精米など施さない玄米で、「蒸して食べる」場合は
現在の「おこわ」の作り方とほぼ同じで、コシキを使い、蒸気の熱と圧力で
米の中に含まれているベータデンプンをアルファ化(加水・加熱して柔らかくする)して食べていた。
黒潮に乗って北上した古代米が日本列島に上陸したのが、今から2500年以上前で
縄文時代の晩期である。コシキは米が渡来する以前から縄文人によって、
すでに使用されており、縄文人は土製のコシキでデンプン(山芋、根菜類)などを蒸していた。
デンプンと言っても、自然物採取生活の時代であるため、栗や木の実類、芋などで、
堅果類や木の実を粉末にして、パン状に成形しコシキを使って加熱して食していたようである。
米はまず加水し、それからコシキの底に空けられた穴の上に小枝や藁などを敷き詰め、
その上に米を乗せて蒸し上げる。つまり「おこわ」で、現在のおこわよりもはるかに、
歯ごたえのある「強飯」と言うもので、よく噛みこまないと消化不良を起こす原因となった。
実はこの「おこわ」が日本人の頭脳開発にきわめて効果的な役割を果たしてきた。
そこで、何故「おこわ」が古代人の脳細胞の機能を発達させたかというと、
「よく噛む」という行為が、当然ながら普通に炊飯した米よりも多く行われ、
ましてや古代米は玄米を用いるので、充分に噛まなければ喉も通過しない。
この一生懸命に噛む毎日の食生活が頭脳開発に実に効果的に作用したのである。
脳はたえず刺激を与えておかないと退化し、萎縮するという特徴があり、
脳を刺激すると言う意味において、思考するという事だけでなく、
食べる「噛む」と言う行為も脳に刺激を与えることになった。
つまり、咀嚼して顎や歯を充分に使用すれば、そのたびに頬の咬筋に電気が発生し、
それが脳への刺激となるわけである。
我々、日本人は古代米を常食としていたおかげで、顎の骨格が角ばり、
目尻と耳の間にある筋肉が非常に発達した。
そして、この部分を「コメカミ」と呼び、「米噛み」からきたと考えられる。
左右コメカミの間、額の下に組み込まれているのが前頭葉であり、
コメカミを刺激することによりこの前頭葉が刺激される仕組みである。
発達した前頭葉を持つ動物は、人間にかぎられ、この脳があるからこそ、
今日の文明・科学が発達し高度な言語表現による意思の伝達や創作活動が
出来るようになったのである。
日本における21世紀の食生活は飽食と言う言葉が生まれるように、
多種多用であり、戦後、日本人の美食追求がもたらしたものは、
欧米型の動物性脂肪分を多量に含む食材で、柔らかく、やや甘味のある食物が増加し、
その結果、肥満が原因となり古来、日本人にはあまり見られなかった成人病が急増している。
今こそ、日本型食生活の基本である主食(米)と副食(大豆の加工食品)、穀類、
旬の食材(魚、野菜、海草、肉類)、日本古来の発酵食品等々、
日本人を世界有数の長寿民族と共に先進技術国家に成長させた要因である
和食を見直すべき時代である。
投稿者 academy : 2007年12月23日 23:50