2007年03月31日

「水」と「H2O」                        村田吉弘@菊乃井

世の中にはありがたいものがたくさんありますけど、
はそういうものの筆頭やねえ。

水がなかったら人間は生活ができない。

考えてみれば、僕らは水の星に生まれ、
水の田で採れる米を食べて育っているんやから、
水がのうて生きていけるわけがない。
僕らの体も九割は水ですしね。

これまで、僕は、人間は単なる生物にすぎないのだから、
生まれ育った土地の水に従ってこそ健康であると考えてきました。

その土地の水で育つ野菜は、その土地で湧いた水で
調理をするのがもっとも自然で、それが、土地の人間の味覚には
もっとも自然においしいと感じられるはずやと考えていました。
今も、その考えは根本的には変わりません。

しかし、このところの水の有りようはどうでしょうか。
店屋さんには、日本全国の水が勢揃いです。
あのボトルを見ると、なんや疑問がいっぱい湧いてきますねん。

旨い水は、ミネラルバランスがうまいことと言われていて、
不純物が含まれていないことといわれます。
山深いところの岩清水のようなものですね。

確かに、こういう水は清浄でおいしい。飲んで旨い水です。
含むと、ころころと転がるようでおいしい。
柔らこうておいしい。いろんなタイプがあります。

本来、人間はこういう水を飲んで力をつけてきたのだけれど、
今は、田舎でも都会でも、井戸水は危のうて飲めませんわね。
なにが入ってるか分からん。
地下水に生活排水や農薬が流れ込んでいるかもしれん。

水を信じることができない。
これは、おそろしいことですよ。

水の星に暮らしながら、自分の土地の地下水を信じられない状況になっている。
したがって、消毒済みの水道水に頼ることとなった。
われわれは生き物として、依って立つ根を失うてしまったようなものです。

そこで、水が商売になってきたんやねえ。
各地名水がミネラルウォーターとしてパック詰めや。よう売れるらしい。

僕ね、いつも思うんですが、おいしい、おいしいてみんな言うてはるけど、
関西の人間は北海道の水をほんまにおいしいと思うて飲んでるんやろか。
ムードで言うてんのと違う?

硬水と軟水の差は、飲めばすぐに分かりますね。
いくら名水やからって、小さい頃から飲んできた水と違っても、違和感はないんやろか。

まあ、ご自分で飲まはるぶんには、そんなん勝手ですから、
僕が口をはさむことはないんです。これはおせっかい。

料理と水の関係を考えると、いろいろとおもしろいこともあります。

たとえば、水の硬軟が調理法を限定することがあります。
硬水にはマグネシウムカルシウムが多いので、
蛋白質をかたまらせてしまう性質があるんです。

日本の水はこれに対して柔らかい軟水です。
だから、米を柔らかく炊きあげられますし、
じゃが芋なども柔らかくゆでることができます。

けど、ヨーロッパの水はやかんの口が
白うなるほどのカルシウムが含まれていますから、
さっと炊いて柔らかくするということは難しい。

煮るとしても、煮込みですね。
長い時間をかけて煮ることで、材料を柔らかくする。

もしくは味をつけただしの中で材料を蒸してから柔らかくする、
蒸し煮という方法しかとれなかった。こうして西洋料理は発達した。

こういうのは、その土地の水に従った結果です。
こういう自然の法にのっとった手法がいちばんおいしい結果をよぶんです。

お茶もそうですね。紅茶は硬水のほうがおいしくでる
だから、ヨーロッパで飲んだほうがおいしい。

緑茶は軟水でいれたほうがおいしい
東日本よりも西日本のほうに茶処が多いのはこのためです。

しかし、現在のこういう自然環境からすれば、
天然水のすべてをイエスと取り入れることもできない。

厨房では厨房なりに、水の特性をいろいろと研究するんです。

イオン交換というんのが、プロの厨房では流行りです。
イオン交換で、水を酸性とアルカリに分けてしまうんです。
おそろしいことができますなあ。

アルカリ水は材料の味を引き出す力が強いというので、
だしを引いたりするのに使います。

そういう意味では、ミネラルウォーターもおもしろいですよ。
ミネラルウォーターはミネラルのバランスがいいから旨いとされているわけですから、
飲んでおいしいなら調理に使っても旨いはずです。
が、いろいろなミネラルのバランスがありますから、
六甲も南アルプスも登別も同じに使うのはつまらん。

僕は科学者ではないから分かりませんけど、
調理目的に合う水を探すとおもしろいやろね。
豆腐を作るのにはどこの水がぴったりか。
茶をいれるには・・・・・、米を炊くには・・・・・、野菜をゆがくには・・・・・。
いろんなケースが考えられる。

ミネラルバランス別の調理効能です。
温泉の効能によう似てますわなあ。
まあ、意味としては同じことや。それが分かったら、おもしろいね。

けどこんなお遊びも公になるとすぐに金儲けの種にされて、
今度は茶の水、素麺水などというパックが出現するんやろうね。
この段階まで来ると、水とはいうても考え方としてはH2Oの世界やね。

そうなったら・・・・・、自分で言い出しておいてなんやけど、
そんなことが素晴らしいことやろか。
それは人間にとって進歩やろか。
言わせてもらえば、そこまでいくと茶番劇に等しいわね。

水の星に生まれ、水によって育てられた人間の「分限」ということを考えれば、
水という大きなものを徒にいじってはならないと思います。

思いますやない、いじったらあきません。

そんなことを考える暇があったら、ごみのひとつもかたづけて、
安全な井戸水をとりもどす努力をしたほうがよっぽどよろしいと思います。

ごみの分別もようせんとウォーターバーに行ったりするのんは愚の骨頂よ。
洒落るより前にやることをやりなさい。

投稿者 culin : 2007年03月31日 22:25