2007年03月01日

レストランシミュレーション実習の運営    学校法人 大和学園 飯 聡

本日は教育の現場から、本校のレストランシミュレーション実習の運営について
お話ししたいと思います。

本校の昼間部調理師科は修業年限が1年の課程ですが、
毎年この時期には一年間の授業の総仕上げとして、
レストランシミュレーション実習を実施しています。

この授業は専攻別に日本料理、西洋料理に二分したのち、
学生をそれぞれ3つのグループに分け、実際のレストラン(料理店)と同様の運営を行います。
すなわち会食に来る「客」としての会食班、料理を仕上げる「調理班」、
来客に合わせて給仕をする「サービス班」の3つに分類します。

実際には対象学生を9分割し、調理が2回、サービスが1回、
会食が6回当たるようにします。つまりこの授業は9日間実施することになります。

ちなみに会食班は、客として来店するだけですが、
料理の味や盛りつけはともかく、サービスを受けての感想等、
コメント用紙に記入しなくてはなりません。

期間中の出席認定は厳しく、事前連絡のない遅刻、
欠席は全てペナルティーの対象とみなし、春休みに補講を受けなくてはなりません。
もちろん、体調不良など、致し方のない理由は除外いたします。
当然、会食班も食事をすることが出来ません。
事前連絡とは、これまでの学生気分ではない、
社会人として当然の振る舞いを求めるもので、
いわば当たり前のルールを求めているのです。

さて今回、3回目の実習指導に担当となり、私は「向板」指導の担当となりました。
その日は109名分の仕込みでした。
内訳は、調理班が24名、サービス班が12名、会食班が64名、指導職員9名となります。

献立そのものは比較的簡単ではあるのですが、
多少コンテンポラリーなエッセンスも加えています。以下をご覧下さい。

一、先付
   筍と独活の木の芽和え
         木の芽

一、向付
   鯛へぎ造り
   赤貝唐草造り
    白髪大根
    敷大葉
    紅蓼
    山葵

一、煮物椀
    清し仕立
     油目葛叩き
     菜の花
     木の芽

一、焼物
    鶏胸肉塩ダレ焼
     ベビーリーフ
     三種類のパプリカの酢漬け
     白髪葱
     粉山椒

一、御飯
    じゃこ御飯

一、香物
    日の菜漬け

 一、汁
    信州味噌仕立
庄内麩
若布

なお、学生には事前に全9回の献立レシピと班分け表、
担当一覧表を配布して予習をさせます。
当日の作業分担は献立により多少の変更があるものの、
実際の料理店と同様の分担にします。

つまり、真(料理長)、煮方、向板、焼場、脇鍋、脇板、八寸場等に分担し、
それぞれを有機的に指導していきます。

授業冒頭にはその日のキャップ(先生)が概要説明を行い、学生の分担を決めていきます。
多くは立候補制をとり、キャップは学生達を上手く振り分けて行きます。

キャップは、学生達に「集散」の大切さを訴えます。
「自分達の仕事ばかりを行わず、絶えず全体を見て他の料理への意識を怠らないように、
特に温かい料理の盛りつけは手を止めて全員で取り組め!」

次に、学生料理長、T君が調理班に向かって今日の抱負を語り、
実践標語「段取り、清潔が全て」を全員が唱和して作業開始となります。

前述しましたが、その日は向板の担当となり、まずは学生を集めて
今日の作業の具体的な説明と他部署への「回し物」を最優先に取り組むよう指示をします。

ところで来客人数は64名と記載しましたが、実際にはこれを二分しての運営となります。
来客時間は1回目が34名で正午、2回目が30名で午後1時半となります。
さらに、一斉スタートするウエディング形式とはせずに、
来店順におよそ5名程度のテーブル単位で誘導する形式を取ります。
このことにより、料理の進行により注意を払い、数を読む意識付けをさせます。
もちろん、会席料理の一品出しのスタイルを取りますので、
遅くに来店した客が、先に来店した客より食べるペースが速いこともあるわけです。

いよいよ回し物の開始です。その日の担当は向板1名に脇板7名、計8名の布陣で開始です。
4名が油目の水洗い、2名が焼物の鶏の掃除と切り出し、2名が赤貝の掃除を開始します。

特に油目は活け締めなので鱗がなかなか取れません。
1回目の来店時間までになるべく仕込みを進め、水洗いはもとより、
どれだけたくさんの油目をおろし終えているかがポイントとなります。

「10時になりました!」料理長が、「お客様の来店まであと2時間です」と声を張り上げます。

そのうちに、焼き場に出張して鶏の回し物を終えた2名が戻って鯛の水洗いを始めます。
鯛は6尾入荷なので、水洗いそのものはそれほどの時間を要しませんが、
包丁を持ったまま、エラと内臓を連結させての内臓除去等、コツのいる作業の連続です。
もちろん、他の先生方も入れ替わり立ち替わりアドバイスをくださいます。

結局、油目の三枚おろしは、予定時刻を20分超過して午前10時35分の開始となりました。
腹⇒背⇒背⇒腹の手順で、鯖の三枚おろしと同様の作業なのですが、
活け締めなので包丁が負けてしまい、上手くいかないと骨に身が残ってしまいます。

学生の包丁を一緒に持ちながら、「その調子で!」と声をかけながらの作業を続けます。
でもなかなか小骨が抜けません。料理長が「作業、間に合いますか」と気遣います。
「誰か応援を回しましょう」と心強い言葉です。

すぐさま八寸場からYさんが応援に。早速、骨抜きを手伝ってもらいます。
1時間が経過したところで卸すのと骨抜きは一旦終了して骨切りの開始です。

「骨切りは包丁の刃渡りをフルに使って」「そうそう、皮肌直前で力を抜いて」と
ポイント指導を続けます。骨切りが終われば切り身にしてバットに並べ、
脇板のTさんが煮方と脇鍋に数量報告に行きます。

鯛の三枚おろし⇒節取り⇒皮引き⇒へぎ造り等、鯛を担当している2名も
息の抜けない作業が続きます。一方で赤貝の唐草は順調に仕上がっている様子です。

「まな板をのけて盛りつけにかかろう」と声をかけて、
冷蔵庫で冷やしている器を並べます。もちろん油目チームも盛りつけに合流です。

造りのあしらいや「けん」などは、八寸場が準備してくれます。
脇鍋が造り醤油を調合して小付(のぞき)に入れています。
向板のA君が料理長に盛りつけ確認を求めに行きます。すぐさまOKの回答です。

さあ急いで量産です。「だめだめ、大葉が見えすぎてバランスが悪いぞ」
「全体にこぢんまりと立体的に表現して!」
「鯛の切り身は尾の身やお腹の身だけにならないように」
と食べる人の目線で盛りつけの大切さを訴えます。

突然、キャップ(先生)から注目の指示があり、全員が手を止めて話を聞きます。
本日のサービスキャプテンの紹介と、オーダー通し役の学生の紹介を行います。
「自部署でのオーダーでなくとも、オーダーが通れば大きな声で返事をしろ!」と檄(げき)が飛びます。

やがて来客となり、オーダーが通り始めます。向付をサービス班に渡すだけではなく、
ビジュアルチェックを忘れず、霧吹きで軽く湿らせて正面を正して出します。

二回目の来客の仕込みにかかるまでに、
「よそのポジションを回って料理の出来上がりや流れを見てきなさい」と休憩タイムを提案します。
また、油目班と赤貝、鯛班のジョブローテーションも行い、
なるべくみんなが作業できるように配慮します。

やがて、2回目の来客も終了し今度は調理班、サービス班、教職員の食事を作ります。
料理店では「まかない」に相当する料理も、仕上げ時間を守るために懸命に仕上げます。

鯛の頭が6尾分残っています。「あらだきを作ろうか」と提案したら、
手の空いた1名が頭を梨割りにしてこなす作業を始めましたので、ポイント指導します。
次いでもう一名、一名と計3名が志願したので、危険のないように指導します。

試食の後は、全員で片づけて掃除をし、レストランシミュレーション実習は終了となります。
料理長の挨拶ののち、再び実践標語を唱和して終了です。

調理班の学生は本日の振り返り用紙にコメントを記入し、
本日の担当名と作業内容、振り返って良かった点と悪かった点を記入します。
まだまだ手は遅いものの、全員がやる気満々のレストランシミュレーション実習の授業が
無事に終了です。

これとは別にサービス班の指導もホールを中心に行われています。
挨拶のお辞儀の仕方に始まり、席への案内、料理の出し方下げ方、
お茶の入れ方、献立解説の仕方等、客の満足の大半はサービスの善し悪しにかかわっており、
こちらも気の抜けない指導が続きます。

卒業後、経験を重ねて一人前となったとき、本校のこの授業を思い出してくれたら幸いです。
人に食べてもらうことが好きな人。人が食べている顔を思いながら心を込めて作れる人。
何十年続けてもこの気持ちを失わない、お腹が空いている人がいれば、
何か作ってあげたい気持ちになれる、そんな人を幸せにする料理人を育てていきたいと思います。

投稿者 culin : 2007年03月01日 20:44