2006年11月12日

野菜話 もう一つ                 梁山泊  主人 橋本憲一

トマトで永田農法の有用性を証明した永田照喜治さんから教わった話だ。

トマト畑作りは原産地の環境で作るという。
原産地の南米、アンデスの高原は水分と栄養分が極端に不足した土地柄だ。
トマトは僅かな水分を地中に求めざるを得ない。地中深くまで水分を探して根を張る。
それでも水分は足りない。

トマトは茎、葉、実の至る所に羽毛を生やすことを思い立った。
金色に輝く羽毛だ。これで、なんと空中の水分を摂るのだ。

この羽毛をしても、まだ水分は不足している。
トマトは茎、葉裏から蒸発する水分を押さえることを考えた。
出費の節約というリストラの最終項が始まる。
自ら粘性の強い液体を作り出し、全身を覆ったのだ。
すべては次の世代を生み出すためトマトの実一点に集中した。

前回の葛と同様野菜には、どこかに目があり、耳が…、そして必ず脳がある。

なぜそう思えるのか? 

この粘性の液体だ。不足しているのは、水分だけではない。栄養分もだ。
いわばトマトは喉が渇いて、腹ぺこの状態だ。

この環境に住む昆虫たちもまた同じ運命を背負っている。
精魂のすべてを込めた真っ赤なトマトを見つけると飛びかかる。

手も足も出ないトマトにはなすすべがない? 

いや、トマトは手放しで諦めはしない。粘性の強い液はトリモチの役目をする。
ただ昆虫を茎や葉裏に貼り付けて、動きを封じるだけで終わらない。
黄金に輝く羽毛が動く。水分が吸える羽毛は昆虫の栄養も取り込むことができる。
トマトは食虫植物になった。

昆虫に食われて未成熟のまま腐っては、生まれてきた甲斐がない。
いや、トマトの事情が許さない。

というのも、滋味に加えこの生命力も得難いうまみになる。
「うまい」はトマトが生き残る重要な条件なのだ。
うまいから動物が食いに来る。

そう、行動範囲の広い動物に食われるため、即ち死ぬために、
必死に生き抜く努力を重ねてきたのだ。

こういうことだ。食われたトマトの種は消化しない。
種は糞に混ざり、高原にばらまかれる。
糞という栄養源を添えてだ。

そして、トマトがとても行けそうにないところまで運んでくれる。
糞も行動範囲も小さい昆虫はそのため拒否されたわけだ。

どうしてトマトがこのことを悟ったかは謎だ。
ただ確かなことは、アンデスの高原をトマトで埋め尽くすという夢を見ているのだ。

投稿者 culin : 2006年11月12日 18:06