驚くべき業(わざ) ◆ 杢兵衛 寺田慎太郎 ◆
① 7年ぐらい前に初めて大阪の東洋陶磁美術館に行った時の話です。
この美術館はその名の通り中国、韓国、日本等の東洋陶磁ばかりが展示されており、
その所蔵物の質の高さと量の多さには舌を巻くほどです。
ここで紹介したいのは17世紀の朝鮮時代の白磁の大きな壺です。
この日たまたま館内の展示物を無料で説明してくれるガイドツアーがあり、
その説明を聞きながら鑑賞していたのですが、
恐らくこの説明が無かったら大きな壺だなというぐらいの感想しか無かったでしょう。
けれどこの壺、今でも非常に印象深く心に残っています。
というのはかつてこの壺を盗もうと泥棒が運び出そうとした所、
これに気付いた警備員が必死になってこの泥棒を追いかけた際、
落っことしてしまい粉々に割れてしまったと言うのです。
ところが目の前にある壺はひび一つ無い完品そのもの。
つまり修復したというのですが、信じられないくらい精度の高い修復で
これはもう見事というより他ありません。
この壺、元々作家の志賀直哉氏の持ち物で
非常に素晴らしいものに違いないと思います。
けれど壺には申し訳ないのですが、私はこの修復の業の方に感服しました。
② 私は与謝蕪村の大ファンで、短冊でも消息でも何でもいいから
1つ蕪村が欲しいと前から思っているのですが、
2年程前にある古美術商がそれを知ってか面白い蕪村の絵を見せてくれました。
「寒山拾得図」で賛が入っています。落款は「謝寅」です。
この絵の何が面白いかというと「寒山拾得図」と言いながら
寒山、拾得は描かれてなく、寒山、拾得が日頃手に持っている
巻物と箒だけが描かれているのです。
この図柄に惚れて今でも欲しいと思っていますが、
実はこの絵にもとんでもないサプライズが隠されていました。
この絵を見せてくれた店員は同時に明治期に撮られた
この絵の写真を見せてくれたのですが、比較しますと何かが違うのです。
よくよく見ますと、写真の絵のほうがひと回り大きいのです。
大きいだけでなく賛と絵の間の隙間も写真の方が広く、
つまり蕪村はもっとゆったりとした空間に賛と絵を配置して
描いていた事が分かります。
どういう事かと言いますと、明治期か大正期かに
この絵を誰かが表装し直しているのですが、
紙本に描かれたこの絵まで直しているのです。
正直な所その方法は全然想像が及ばないのですが、
恐らく和紙の非常に細かくもつれ合った繊維を解き、
余計な部分を取り去り、再びくっつけているのでしょう。
気の遠くなるような作業です。
①の話と同様で絵を見ただけでは直しが入っているとは夢にも思えません。
まさに神業です。
蕪村はきっと怒るでしょうが、この業に敬服しました。
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投稿者 culin : 2006年08月30日 09:52